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すべての人に、表現の自由を
ALS支援プロジェクト「Follow your vision」座談会

3rd PARTY PROJECT 2017.01.17

JINS MEMEの新たなサードパーティプロジェクトとして、「Follow your vision」(FYV)が本格的に動き始めました。これは、メガネ型デバイス「JINS MEME」と専用アプリ「JINS MEME BRIDGE」を使い、世界で約40万人/日本国内で約9,200人を超える人が発症しているといわれるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の「表現の自由」をかなえるプロジェクトです。 「すべての人に、表現の自由を」——。プロジェクト始動にあたりそんな思いを掲げたのは、FYVを立ち上げ、ご自身もALS患者である武藤将胤さん(一般社団法人WITH ALS代表理事)。今回は発起人・武藤さんと、本プロジェクトにクリエイティブディレクター兼ビジネスプロデューサーとして参加する株式会社博報堂・上條圭太郎さんの両名に、JINS MEME開発担当の2人がプロジェクトの概要や始動のきっかけについてお話を伺いました。

座談会メンバー)
左から二人目:Follow your vision発起人/一般社団法人WITH ALS代表理事 武藤将胤
右から二人目:株式会社博報堂 上條圭太郎
左:株式会社ジェイアイエヌ JINS MEMEグループ 開発担当 佐藤拓磨
右:株式会社ジェイアイエヌ JINS MEMEグループ 開発担当 一戸 晋(聞き手)

「メガネ屋だからこそ開発できた」日常に溶け込むウェアラブルデバイス

ジェイアイエヌ・一戸晋(以下、一戸):今回の進行を務めさせていただく一戸です。よろしくお願いします。

そもそもこの「Follow your vision」(以下、FYV)がスタートしたのは、武藤さんがここ、JINS MEME Flagship Store原宿にご来店され、実際にJINS MEMEを手にとって体感していただいたことからスタートしましたよね。

WITH ALS・武藤将胤(以下、武藤):JINS MEMEが正式にリリースされてすぐだったと思います。Flagship Store原宿でJINS MEME初めて着用させてもらったときの印象は、とにかく「軽い!」と思ったこと。そして、いい意味で“普通のメガネ”であることでした。

視線を計測できる、いわゆる「アイトラッキング装置」は他社からも発表されていますが、正直どれもメカニックでごつい感じがして、とても家の外では使えないものが多かった。JINS MEMEなら日常生活で積極的に使えると思いましたし、価格も何十万とかするものではなく、十分に僕らが手の出せるお手頃なもの(JINS MEME ESの価格は税別3万9000円)。それが最初の印象でしたね。

一戸:実は、JINS MEMEを設計・デザインしていくときに分岐点があったんです。当時はメガネ型ウェアラブルデバイスが他社から続々と発表されていた時期で。ジェイアイエヌとして新たなメガネ型ウェアラブルデバイスを世に送り出すときの方向性として、“普通のメガネ”にするべきなのか、それともテクノロジーに特化した“いかにも”なデバイスにするべきなのか——。

しかし後者をリリースしたときのイメージとして、例えば「電車の中ではとても着けてもらえないな」と考えました。そうした思いから“普通のメガネ”でいくという選択をとった経緯があるんです。

ジェイアイエヌ・佐藤拓磨(以下、佐藤):「ジェイアイエヌという“メガネ屋”が送り出すウェアラブルデバイスだからこそ……」というビジョンは、当初から意識していました。いわゆるIT系企業が出したものだと、JINS MEMEのようなかたちにはならなかったはず。テクノロジーを盛り込もうとすると、どうしてもごついものになってしまいますから。

「障害者用プロダクト」だなんて聞くと、多少なりとも抵抗感を感じるものですが、JINS MEMEなら自分らしさを保ったまま着用できます。いざ着用するとなったとき、身構えてしまうようなものなら、結局使わなくなってしまいますし。

一戸:正直、開発当初は障害のある方にそんな価値をもたらすなんて考えてもいませんでした。武藤さんのお話を聞き、あのときの選択は正しいものだったと改めて思います。

お互いが本音を言い合える共創関係

一戸:さて、武藤さんがFlagship Store 原宿にご来訪されたことをきっかけに、いざFYVが始動していきます。実際に動きだすまで、どんな思いを抱えていらっしゃったのでしょうか。

武藤:そもそもALS(筋萎縮性側索硬化症)は、全身の筋力が次第に弱まっていく難病です。しかし比較的“目”のまわりの筋力は最後まで残ると言われていて、実際に、眼の動きで意思を伝達している患者は多く、アイトラッキング装置をすでに導入している患者さんもたくさんいるんです。

そう考えたとき、JINS MEMEのようなデバイスを使えば、目の動きを「表現活動」に活かせることができるのではないか、そう考えました。それが実現すれば、障害者・健常者にかかわらず、すべての人が平等に自由な表現をできるようになります。きっとALS患者にとって希望のプロダクトになるだろうと思いました。

一戸:その後、チームには上條さんたちが合流されます。

武藤:当時から僕は“新しいことを仕掛けたい願望”が強いほうなので(笑)、すぐに動き出しました。かねてから親交のあった博報堂の上條圭太郎さん、雨海祐介さんにすぐにお声がけし、まずは3人でプロジェクトを立ち上げてみようと。そうして始まったのがFYVプロジェクトです。

博報堂・上條圭太郎(以下、上條):チームにはクリエイティブディレクター兼ビジネスプロデューサーとして、立ち上げ当初から参加させてもらっています。

FYV立ち上げ以前に武藤くんと出会い、それからというものALSのことをもっと広く啓発をすることが自分のなかに据えた大きなテーマになりました。それをかなえるデバイスをリサーチしているなかで、まさしくこれだ!と。「JINS MEMEに出会えた」と感じたんです。

一戸:それから、飯田橋のジェイアイエヌ本社に皆さんがいらっしゃって、開発メンバーも交えて議論しましたよね。

JINS MEMEの3rd PARTY PROJECTを正式発表した後は、武藤さんのように外部からの問い合わせが続いていたのですが、中途半端に始動させるわけにはいかないため、なかなか一筋縄にはいきませんでした。開発チームとしてはどれもやってみたい気持ちがあるんですが、正直まごまごしているような状態。 武藤さんや上條さんからFYVに関するプレゼンを聞き、その後も積極的に牽引していただけたので、僕らも思いきって動くことができたと思います。

上條:どんなビジネスでもそうだと思いますが、クライアントがいて、そこから受注するような関係性ができてしまいますよね。しかしFYVでは、ジェイアイエヌさんがクライアント、僕らが受注者という関係性では動いていない。プロジェクトを進めていくうえで、常にお互いが本音を言い合えていると感じています。

武藤:たしかに会社の垣根を超えた共創関係でプロジェクトを進めていけたことは、個人的にもとても貴重な時間でした。

ALS患者でも、絶対に“表現すること”を諦めたくない

一戸:せっかくの機会ですので、ALS患者さんの表現手段について、もう少し詳しく教えていただけますか。

武藤:ALSは治療方法がまだ確立されていない病気です。しかし病気がどんなに進行しても、意識だけははっきりしている。いつまでも付き合っていかなければならない病気だからこそ、僕らをサポートしてくれるアイテムは「意思伝達の手段」のみならず、「表現の自由」をかなえるものであってほしい、という思いがあります。

僕の場合はALSを発症する前から音楽が大好きで、学生時代から音楽イベントのマネージャーを務めたりしていました。そしてずっと音楽に携わっていきたいという思いから、DJとしても活動するようになったんですが、ちょうどそんなときにALSを発症したんです。

一戸:今回のFYVで開発した専用アプリ「JINS MEME BRIDGE」は、視線移動・まばたきの動きを独自のアルゴリズムを通じ、コマンドに変換します。これによって、眼の動きだけで身の回りのデバイスを自由にコントロールできるようになるというもので、2月上旬より公開予定です。

一戸:実際に武藤さんには2016年12月15日に行った JINS MEMEのイベントで、このアプリを使いDJ(ディスクジョッキー)/VJ(ビデオジョッキー)として見事なパフォーマンスを披露していただきました。

武藤:多くの音楽イベントでは、DJとVJはそれぞれ別の方がプレイするのが一般的なんです。しかしJINS MEMEを使うことで、その両方を同時にプレイすることができました。すでに手で細かなプレイをすることすらできなくなっていたけれど、今はDJ/VJとして同時にプレイすることができる。 いわばALS発症前よりも進化できているということで、これはとてもチャレンジングな体験です。

佐藤:表現のかたちは、ALS患者さんによってもさまざまですよね。

武藤:はい。僕の場合はたまたま「音楽」「映像」による表現だったけれど、他のALS患者ならばこれが例えば「絵画」であってもいいと思います。

佐藤:眼の動きで、絵が描けるようになる——。それもまた1つの可能性ですね。

武藤:ALS患者になったら、みんな夢を諦めなければいけないなんて、絶対に思われたくありません。どんな人の表現の自由もかなえてくれる、希望にあふれたプロダクトにしていきたいですね。

オープンイノベーションだからできること

一戸:「JINS MEME BRIDGE」では、多種多様な表現のかたちに対応できるよう、これからもアップデートをかけていきたいと思っています。個人的な思いとしては、武藤さんにはプレイするだけではなく、映像作品なんかを自らで制作できるようになってほしい、なんて考えています。

武藤:最近はカメラのシャッターを切ることさえままならなくなってきていますが、「JINS MEME BRIDGE」ならまばたきで写真を撮ることができますよね。今この目で見ている景色のその瞬間を、写真や映像としてとらえることができる……。自ら撮影して、それを編集できるようになればとても楽しいと思います。ほかにも楽器演奏者の人とセッションをするなど、さまざまな可能性が拡がります。

佐藤:使う側もつくる側も一緒の楽しむことができるのは、とてもよい点だと思います。オープンイノベーションの取り組みは我々もかねてからずっとやりたかったことですが、実際どうすればいいか、なかなかわからなかった。FYVプロジェクトには、必然的にエンジニア、デザイナー、クリエイター、企業の方が集まってくる。いろいろな人の力を借りながらも遂行していくことが自然とできてしまう印象です。

武藤:たくさんの人が表現できる機会を増やすことは、大きな希望につながります。実際にALS患者の多くの人がFYVに興味を示してくれていて、特に若い方の反応がすこぶるいいんです。

一戸:今後の動きとしては、2017年2月から東京・大阪・福岡の3都市でハッカソンを開催します。そこで武藤さんの思いを伝え、また反対に参加者が感じていることを武藤さんに伝える、そんな橋渡しをジェイアイエヌが担い、ハッカソンで生まれたアイデアを社会に実装することで、より多様性のある世界に導いていきたいです。本日はどうもありがとうございました。

(文:安田博勇 / 写真:田中由起子 / 企画構成・編集:東京通信社)

JINS MEME 「Follow your vision」